『ドマーニ!愛のことづて』

若槻

6/1㈰~6/13㈮ ※火曜休館

2023年 イタリア

1時間58分 

配給:スモモ

監督・脚本:パオラ・コルテッレージ

製作:マリオ・ジャナーニ / ロレンツォ・ガンガロッサ

脚本:フリオ・アンドレオッティ / ジュリア・カレンダ

撮影:ダビデ・レオーネ

美術:パオラ・コメンチーニ

衣装:アルベルト・モレッティ

編集:バレンティーナ・マリアーニ

音楽:レーレ・マルキテッリ

出演:パオラ・コルテッレージ / バレリオ・マスタンドレア / ジョルジョ・コランジェリ / ビニーチョ・マルキオーニ / ロマーナ・マッジョーラ・ベルガーノ / エマヌエラ・ファネッリ

 2023年、イタリア国内で『バービー』『オッペンハイマー』といった世界的ヒットを抑え、興行収入第1位を記録した映画『ドマーニ!愛のことづて』。「ドマーニ」とはイタリア語で「明日」を意味します。今作がこれほどにもイタリア国民に響いたのは、現在でも続く普遍的なことがテーマであるからでしょうか。

 舞台は1946年。第二次世界大戦が終わった翌年のイタリア。戦争によって心に深い傷を負って帰還した男性たち。その傍らで声もあげずに耐えてきた女性たち。主人公・デリアは家庭の中で暴力・暴言に晒されながらも、それを受け流すことで自分を守っていました。しかしその姿は子供たちの目には、無力で情けない母親の姿として映ってしまっていました。

 驚くのは、その物語が約80年前の出来事とは思えないほど、私たちの現代と地続きであるということです。物語の中で、デリアが受ける仕打ちの数々「家事は女性がやるべきものである」「女性よりも男性の方が給料が高い」など。その‘‘当たり前”は、時代の流れによって薄れてきてはいますが、今も根強く残り続けています。問題視されるようになっただけで性別役割分業、ジェンダー格差の壁はまだまだ大きいです。女性自身でさえ「女性の生き方とはこうである」という考えが潜在意識的に染み付いているのです。

 本作は、家庭という小さな社会に潜む世代を超えて受け継がれてしまう価値観の連鎖を、ミュージカルやヒップホップといった多様な演出を交えながら、ユーモアと残酷さをもって描いています。重いテーマでありながらも、観る人の心を押しつぶすことなく、むしろ希望を抱かせる前向きな作品です。これは主演・監督を務めたイタリアを代表するコメディエンヌ、パオラ・コルテッレージが作品にこめた願いでもあります。

「明日があるわ」

 厳しい立場に追い詰められていても、日々の小さな幸せと明日があるという希望を持つデリアは実は強い人とも言えるでしょう。

 ある日、突然来たデリア宛ての手紙。それが彼女自身とその明日を輝かせるものとなります。“私はここにいて、私としての価値を証明する”そう叫びたくなるほどの強烈なパワーで明日を切り開いていきます。

 人の心は環境によってつくられ、気づかぬうちに他者に影響を与えてしまう。だからこそ、どんな時代でも「自分の言動が誰かにどんな影響を与えるか」に思いを馳せることが求められるのかもしれません。

 ぜひ、本作を通して自身の価値観や常識と向き合ってみてほしいです。

宮下千宙