『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』

2025年5月3日
若槻

5/17㈯~5/30㈮ ※5/20㈫,27㈫休館

2023年 フランス・イタリア合作

1時間39分 

配給:オンリー・ハーツ

監督・脚本:レア・トドロフ

製作:グレゴワール・ドゥバイ

脚本:カトリーヌ・バイエ

撮影:セバスティアン・ゲプフェール

美術:パスカル・コンシニ

衣装:アニエス・ノーデン

編集:エステル・ロウ

音楽:レミ・ブーバル

出演:ジャスミン・トリンカ / レイラ・ベクティ / ラファエル・ソンヌビル=キャビー / ラファエレ・エスポジト / ピエトロ・ラグーザ / アガト・ボニゼール / セバスチャン・プードル / ラウラ・ボレッリ / ナンシー・ヒューストン

世界的に実践されている教育法の生みの親

 「モンテッソーリ教育」とは子どもたちの自発的な成長と発達を確信し、そのうえで観察・理解・試験に基づいてその成長と発達のために環境を整えることを重視する教育法となります。そういった子どもたちの「自立性・自発性・自己教育力」に真価を見出し、これを促すメソッドを確立させたマリア・モンテッソーリは1870年、イタリア中部アンコーナ近郊で生誕し、優秀な成績を修めながらローマ大学医学部へ進み、イタリア初の女性医師となった人。映画で描かれるのは1900年のローマ、マリア・モンテッソーリが30歳くらいの頃でしょうか。

 当時は女性差別が当たり前の男社会。学問的にも社会的にも、女性参画が認められないなか、マリアはイタリアにおいて初めて、女性として医学博士号を取得するも、医学界でも当然のように冷遇され、なかなか医師として勤められずにいました。ローマ大学付属精神病院に勤めていた頃、障がいのある子どもたちが遊んでいる姿から、その感性を育てあげるべく治療と教育を始めていく姿から描かれます。後に世界的に普及することとなったモンテッソーリ教育法を実践していく幼児教育施設の開設に至る、出発点とでも言いましょうか。

 しかし偉人とされるに相応しい、非常に研究熱心な方でして、障がいある子どもたちを成長させるべく、自分自身が見識を広めようと、心理学や教育学を修め続けます。ローマ大学を卒業した後も、その感覚的教育法を確立させるために医師を辞め、更なる学級のためとローマ大学へ再入学するほど。子どもたちの自発性を目の当たりにしたからこそ、繰り返し繰り返しの反復学習こそ重要であることを理解しているので、自分でも積極的に実践していくわけですが、ときに手段を選ばないような野心の局面さえ描かれます。何とも人間の執念を感じますね。何かを成し遂げようとする人間の姿ですね。

 映画ではマリア・モンテッソーリと教育法開発に関して全てのエピソードが事実ではなく、脚色もされていますが、重要なのはこれほどの偉人が、社会的な風潮によって子育てとキャリアアップを同時に遂げることが出来なかったこと。母性とキャリアの選択を迫られたことですね。レア・トドロフ監督はドキュメンタリー作家だからこそ、これを最も重要視して映画化しました。生きていく選択は女性や自分自身がすべきことであり、社会が決めるべきことではないと伝えたかった。この教育学者の衝撃的な執念に、トドロフ監督は感化されたわけですね。

 マリア・モンテッソーリはイタリア人ですが、この映画はフランスとイタリアの合作になります。トドロフ監督も製作のグレゴワール・ドゥバイもフランス人。さらに『ダゲレオタイプの女』で美術監督を務めたパスカル・コンシニ、『パリタクシー』の衣装デザイナーであるアニエス・ノーデンといった、フランスの一流映画スタッフが揃って約120年前のローマ情景を再現してみせたこと。ローマ生まれの名優であるジャスミン・トリンカが偉大な教育者、医師、学者であったマリアの半生を演じ遂げること、とても見応えありますね。フランスとイタリアが映画のために製作の熱を合わせたところ、そういった背景にも注目してみてください。

宇尾地米人