『ぼくたちの哲学教室』

シネ・ウインド

 北アイルランド、ベルファストにあるホーリークロス男子小学校にて、主要科目とされている哲学の授業風景を記録する。まず、そもそも哲学とはなんでしょう。大雑把に言うと、人間や道徳や真理について考察し究めていく学問です。物事を論理的に、また批判的に考察する力が養われる分野とされます。日本では、例えば高校の選択科目などで履修した人や、有名な哲学者であるソクラテス、プラトン、アリストテレスといった名前を聞いたことがある人も多いでしょう。哲学はさらに形而上学、倫理学、論理学などの分野に分かれ、それぞれ「存在」や「知識」や「規範」といった対象の本質や性質について研究していくわけですが、何やら難しそうですね。まさしく究明や考察といった学問です。

 これをベルファスト・ホーリークロス男子小学校では、4歳から11歳の生徒を相手に開講する。その取り組み方や授業の様子、生徒たちの反応など、どういったものなのかというドキュメンタリーです。中心となるのは校長を務めるケヴィン・マカリーヴィーであり、彼の生徒たちに対する熱心さ、真剣さ、エネルギッシュな教育スタイルが映える。生徒たちに対して「どうしてか」「なぜそうなるか」と考えることについて説いていき、それが哲学という言葉・思索・目標であり、考える能力、説明する能力、違う考えを尊重する能力を育てることへと繋げていく。人心や生活や世の中がより良いものとなるためです。そんな校長自身、荒んだ街中で荒んだ思考をもって生きてきたからこそ、いまそれを省みて教育の原動力とされているそう。

 ベルファストはプロテスタントとカトリックの宗教対立によって紛争が続き、荒廃した都市のひとつ。共和国独立派と連合維持派による政治的対立による闘争跡も残り、暴徒・武装化、軍や警察による大規模な鎮静活動、犯罪増加や薬物乱用など治安に関する問題も映像に収められ、ケヴィン校長の教育方針にも関わっていることが語られていきます。彼が子どもたちにどうあってほしいか、最後の最後に、哲学という学問を交えながら、幸福に逞しく生き抜いてほしいと説く姿に、沁々と感極まりました。(宇尾地米人)