『結局珈琲』

シネ・ウインド

6/6(土)~6/12(金)※火曜休館
〈同時上映〉『夢と進路』

『結局珈琲』『夢と進路』新潟上映情報

シネ・ウインドに来る人は実に多彩です。私たちはいつでも誰でも歓迎しますが、なかでも何年も何十年も足を運んでくれる方々はとても貴重でありがたい存在です。販売解禁直後に入場券をお求めになる人。パンフレットを買う人と買わない人。開場時間を待つ人と予告編上映中に走ってくる人。それぞれお好みの座席番号があるのも面白い。映画の感想をたっぷり話す人。アルビレックス新潟の動向を常に気にしている人。そして全作品を見るほど受付でお会いしているのに20年以上一度も会話をしたとがない人。『結局珈琲』を見て思ったのは「なんだか映画館と喫茶店は似ている点が多そうだ」ということでした。映画の冒頭、常連の若い女性(主役・青木役の藤原さくらさん)のお客様がいつものコーヒーを注文する。そして彼女に接客するベテランと新人という二人の女性バイトの会話は「私たちも心当たりがある」内容で、基本的に来場者を拒まず空間と時間とちょっとした楽しみを提供するお店の共通性かもしれません。

永く東京・下北沢の街中で愛されてきた喫茶店「こはぜ珈琲」、このお店の閉店・移転までの2か月を描いたのが本作です。無くなってしまう場所について、そこに関わってきた人はたくさんの思いを巡らせるのでしょう。コーヒーとともに一人読書で過ごす時間も、周囲に座る常連客の雑談につい耳を傾けてしまう時間も、それぞれの場所とそこから見える光景と飲んだコーヒーの香りや味とともに記憶として残っていくのだと思います。この映画を見てリアルに感じたのは、お店のスタッフより常連客の方が喫茶店喪失への思い入れが強いように見えた点でした。私ももちろん映画館シネ・ウインドに超愛着がありますが、お越しになるお客様はこの場所に対する愛情の深さがより深いように感じています。経営や収支とは一線を画した、個人の純な思いが通う場所を特別な空間へと化学変化させているのかも。

監督は前作『立てば転ぶ』でもスーパーマーケットでの不思議な人間関係を描いていた、劇団コンプソンズ所属の俳優でもある細井じゅんさん。先輩バイトの日高七海さんと常連客・伊藤さん役の東野良平さんは『立てば転ぶ』にも出演していました。前作同様この映画も面白い演劇のような設定や会話が楽しめます。更に店長役の柄本時生さん、新人バイトの瀬戸璃子さん、店長いわく“さえないやつ”こと山脇辰哉さんたちも「こはぜ珈琲」のスタッフや常連客として登場。彼らはみんな、藤原さくらさん演じる青木さんという太陽の周りを異なる軌道や速度で回っている一つの太陽系みたいです。その太陽系に磯村有斗さんや岡田義徳さん、そして「こはぜ珈琲」の谷川てんちょが彗星のように現れるのですね。

このように『結局珈琲』の登場人物はいずれも超個性的で愛すべき人勢揃い。なかでも私自身は東野さん演じる伊藤さんが好きで仕方がありません。コーヒーを運ぶ様子など視覚的印象はもとより、台本にあるのかアドリブなのかよくわからない台詞の数々が私の心を射抜きました。みんな見てほしい。伊藤さんはきっと多くの新潟県民を虜にするでしょう。

この映画を見たら、あなたのお気に入りのお店や場所を訪ねてみてください。それまで気づかなかった心地よさや愛着を感じるかもしれませんよ。さて、私も次の休みにはお気に入りの喫茶店に行ってみるつもりです(井上経久)