『私たちが光と想うすべて』

若槻

9/20㈯~10/3㈮ ※火曜休館

2024年
インド・フランス・オランダ・ルクセンブルク合作
1時間58分
配給:セテラ・インターナショナル

監督・脚本
パヤル・カパーリヤー『何も知らない夜』

製作
トマス・ハキム『何も知らない夜』
ジュリアン・グラフ『何も知らない夜』

撮影
ラナビル・ダス『何も知らない夜』

美術
ピユシュ・チャルケ
ヤシャスビ・サバルワル
シャミム・カーン

衣装
マキシマ・バス

編集
クレマン・パントー

音楽
ドリティマン・ダス『何も知らない夜』

出演
カニ・クスルティ
ディビヤ・プラバ
チャヤ・カダム『花嫁はどこへ?』
リドゥ・ルーハーン
アジーズ・ネドゥマンガード

光/色彩/沈黙/マジック・リアリズム
—インド映画の新たな可能性

 ムンバイで暮らす真面目な看護師のプラバ、同僚の陽気なアヌ、病院の食堂に勤めるパルヴァディという3人の女性をとりまく物語。インド出身、新進気鋭のパヤル・カパーリヤー監督による初の長編映画です。

 懐かしくて、新しい。どこかY2Kを想起させる仄暗くてざらっとした映像からは、そんな印象を受ける人も多いのではないでしょうか。アヌが仕事終わりの夜、恋人から贈られたノートをスマートフォンのライトで照らし、詩を読むシーンがあります。背後の窓越しに広がる雨夜の風景に、ぱっと灯る光が美しい。さりげない場面ですがこの映画を象徴しているようで、注目のワンシーンです。

 カパーリヤー監督は、是枝裕和や濱口竜介、小津安二郎といった日本の監督から影響を受けたそう。市井の人々へのまなざしや会話に漂う曖昧さなど、邦画特有の息づかいが本作の味わい深さに通じている気がします。建物の中で撮られるショットも多く、小津映画のように扉を活用した緻密に練られた構図が差し込まれるのも面白い。日本映画との繋がりにあれこれと思いを馳せてみるのも楽しみのひとつです。

 穏やかにストーリーは進み、彼女たちはパルヴァディを故郷の村まで見送る旅へ出ることに。異なる人生を進む3人は、一緒に過ごす時間の中で絆を深めていきます。日常生活でも、他愛もない話で笑い転げた後にふと、相手と心が通ったように感じることがあります。そして時間が経っても、その何気ない瞬間が記憶の中であたたかく灯っていたり。そんな一瞬のきらめきを閉じ込めたシーンが要所の見所です。

 旅先の舞台は、インド西海岸の村であるラトナギリ。ムンバイの都会的な賑わしさとは対照的に、文明から切り離された神秘的なムードが漂います。俗世から一線を隔てた海辺の風に誘われて、登場人物それぞれが無意識の奥深くに潜り込むように、物語は重厚さを増していきます。プラバが見る夢とも現実ともつかないマジック・リアリズム的な要素を帯びたシーンは、映画にかけられた魔法そのもの。その場面でプラバが囁いた言葉は、彼女が時間をかけて下した決断を表すようで、私は胸が突き動かされました。

 余白と深みを湛えながら、等身大の人々をくっきりと映した本作は、インド映画の新たな一面を見せてくれます。葛藤しながらも寄り添って生きる彼女たちの姿は、日本で暮らすわたしたちにとっても遠からず、沁みこむように記憶に残ります。今後のインド映画にも注目したいと思わせてくれる作品です。

中村理奈

《上映時間》
9/20㈯~9/26㈮ 〇12:15~14:25 ※9/23休映
9/27㈯~10/3㈮ 〇10:00~12:10 ※9/30㈫休館