『犬の裁判』

2025年8月12日
若槻

8/30㈯~9/12㈮ ※9/6㈯,7㈰,8㈪休映、火曜休館

2024年 フランス・スイス合作
1時間21分
配給:オンリー・ハーツ

監督・原案・脚本・出演
レティシア・ドッシュ『シンプルな情熱』

製作
リオネル・バイエル
アグニェシカ・ラム
トマ・ベルアエジュ『12か月の未来図』
マチュー・ベルアエジュ『ディアスキン 鹿皮の殺人鬼』

協同脚本
アン=ソフィー・バイリー

撮影
アレクシ・カビルシーヌ『ダンサー イン Paris』

美術
エルザ・アミエル

衣装
イザ・ブシャラ

編集
イサベル・ドゥビンク『ニューヨーク、恋人たちの2日間』
スザナ・ペドロ『クレオの夏休み』

音楽
ダビッド・シュタンク

出演
フランソワ・ダミアン『エール!』
ジャン=パスカル・ザディ『シャーク・ド・フランス』
アンヌ・ドルバル『Mommy マミー』
マチュー・ドゥミ『トムボーイ』
アナベラ・モレイラ『ディアマンティーノ 未知との遭遇』
ピエール・ドゥラドンシャン『ぼくは君たちを憎まないことにした』

犬も歩けば法に触れる…

 この映画が日本に上陸したとき、なかなか唸らされました。犬が人を噛んだ悶着を巡る、フランスとスイスによる法廷コメディとのことですが、興味深い案件というか案犬を映画化したと思いました。劇中でも触れておりますが、「動物裁判」は中世ヨーロッパにおいて度々開廷されていたことがあります。さらに近年でも、2021年アメリカ・オハイオ州にて繁殖したカバたちが生態系にダメージを与えていることが問題視され、カバを原告に駆除を巡る裁判が行われました。結果的にアメリカの歴史上で初めて、「動物が法的に人間と同等である」と判決が示され、駆除ではなく監視が続けられる方向となりました。

 動物の権利論という主張も1590年代から本格的に活発化したようで、様々な理論や解釈、権利運動が繰り広げられてきました。日本においても、ヒグマやツキノワグマによる獣害事件が起こり、猟友会による駆除や、動物愛護観点からこれに反対するクレーム騒動が問題視されることも。日本では動物愛護管理法や鳥獣保護管理法などのもと、動物の愛護と適切な管理、罰則、処分について制定されています。とはいえ言うまでもなく法律とは基本的に人間の、人間による、人間のための規範であり、時に動物たちは人間たちの定める都合によって自由を制限されてしまうこととなり、このような事案が度々論争を巻き起こすわけです。

 いまフランス映画界で目覚ましく活躍し続ける女優レティシア・ドッシュ。役者として演技に集中してきた彼女が、今回、監督と脚本と主演を兼任する、まさに意欲作だ。以前から動物と共演する機会があり、エコロジカル活動にも携わり、「生き物」や「種」を意識するなか、人間に最も近い種こそ犬ではないかと考え、映画化に臨んだとのこと。法廷劇であり、動物主演作となるが、多くの人々の目に触れてもらおうと(敢えて)取るに足らないようなギャグを入れ混ぜながら、実話に基づくという事件というか事犬ストーリーを展開させる。とはいえ彼女の問題意識は真剣で本物であり、劇中で被告犬の処遇を巡る論争は学者や専門家のみならず多くの市民へ波及し、予想を上回るような展開を繰り広げる。

 法律とは原則、人間の自由、生命、財産を守るものであり、例えば深刻な獣害事件の対処として政府や自治体の認可によって武力も行使されるわけですね。逆に言うと勝手気ままに生き物を殺傷することは違法ということですが。人間が制定する法律の対象としているものは主として人間です。基本的に人間と意思疎通が困難な動物たちが司法の場に召喚され、何らかの不利益が生じたのであればその道徳性や犯罪性が論じられる。その人間社会の構造と都合について、この映画は問うてみるかたちとなっています。彼は愛情深い親友か。犯罪常習の猛犬か。思わず仄々してしまうような動物コメディではありません。法で定められた”最終手段”を避けたい人間意識、退くに退けない女たちの執念、そして被告犬コスモスを演じた俳優犬コディの名演技がありました。人間と動物の共存共生について見つめ直す、これぞ必犬の注目作です。

宇尾地米人

《上映時間》
8/30㈯~9/5㈮ 〇12:40~14:10 ※9/2㈫休館
9/6㈯~8㈪は【特別上映】のため休映
9/10㈬~9/12㈮ 〇18:30~20:00