歌に合わせて楽しもう!『ムトゥ 踊るマハラジャ』

シネ・ウインド

今回の『ムトゥ 踊るマハラジャ』上映にあわせ、「下越インド映画クラブ」会員の友人である『ムトゥ』の字幕翻訳者松岡環さんからメッセージをいただきました!

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 新潟のインド映画ファンの皆様、「下越インド映画クラブ」の結成、おめでとうございます! いろんなインド映画を楽しんでいただきたいと思いますが、私の字幕の『ムトゥ 踊るマハラジャ』に関しては、中のソング&ダンスシーンについて下のような拙文を書いたことがあります。よかったらご参照のうえ、これらの歌のシーンでは、ご一緒に歌ったり、手拍子したり、口笛・指笛(インド人の観客はよくやります)を吹いたりして楽しんで下さいね。

 歌は全部で6曲使われていて、作曲はもちろんA.R.ラフマーン、そして作詞は詩人でもあるヴァイラムットゥと、鉄板のコンビです。曲の中で、豪華なダンスが付いているのが次の4曲です。

①主(あるじ)はただ一人

②菜食の鶴

③グルヴァーリ村で

④ティッラーナー、ティッラーナー

この4曲をそれぞれ、簡単に解説しておきますね。

①主(あるじ)はただ一人

”スーパースター”ラジニカーントの作品には、冒頭に必ずと言っていいほど、主人公を紹介する歌が出て来ます。私はこれを”お名乗りソング”と呼んでいるのですが、主人公がどういう人物か、外見を説明するというよりも、彼の信条、主義主張を歌いあげるソングなのです。『ムトゥ』のこの歌でも、主人公ムトゥの忠誠心(”主”は主人であり、時には神にも通じる表現です)や「運命に打ち克て」という人生観、そして金銭感覚なども歌い込まれて、「このおっさん、何者?」と思わせてくれます。ムトゥはこの時、馬車を駆っているのですが、途中でいろんな人が間奏部分に登場し、群舞シーンを繰り広げてくれます。

②菜食の鶴

ムトゥの主人、ラージャが「結婚を決めた」と言うので屋敷中が大騒ぎになり、ラージャの嫁は私、と信じている従妹のパドミニがしゃっくりをし始める….。彼女は嬉しいことがあると、すぐにしゃっくりが出る体質なのです。その「ヒック、ヒック」から始まるという意表をついた歌で、タイトルの意味は「菜食の鶴がいたのに、おいしそうな鯉を見て菜食の誓いを破り、その鯉をパクリ=独身主義と言っていた旦那様ラージャも、好きな女性ができたら結婚する、とすぐに誓いを破った」というもの。ラージャの恋のお相手は、旅回りの劇団でヒロインを張るランガナーヤキ(ランガ)なのですが、そんなこととはつゆ知らず、パドミニは舞い上がります。この曲はものすごいカット数のソング&ダンスシーンとなっており、屋敷の召使い全員+αの群舞に加えて、あひるやら孔雀やらも踊るというトンデモなミュージカル・シーンです。おまけに、恋愛指南役の老女が出て来て、これまた強烈なキャラクターのおばあさん――という、何度見ても飽きないソング&ダンスシーンです。

③グルヴァーリ村で

ムトゥが旦那様ラージャと一緒にランガの芝居を見ていると、地方のヤクザの親分が彼女を自分のものにしようと乱入、その場からムトゥの馬車で逃げたムトゥとランガは、ヤクザの馬車軍団の猛追から逃れ、タミル・ナードゥ州の隣の州、ケーララ州に逃げ込みます。旅回りの一座であちこち行っているランガは、ケーララ州の言葉マラヤーラム語もお手のもの。言葉のわからないムトゥをからかって、さんざんな目に遭わせます。それがわかったムトゥは怒り沸騰、水浴びをしようとしていたランガを見つけ、彼女に突進しますが、その勢いで二人は川縁の岩場を転がり、川の中へ。そして、互いの愛情に気づき”濡れ場”となるのですが、この川へドブン! までのシーンがまた見もの。二人が転がるだけでなく、ビーズ玉などもころがりまくる、全編で一番美しいシーンとなっています。こうして恋を自覚した二人が、トライブ=その地方の先住民の人たちとおぼしき男女と歌い踊るのが、「グルヴァーリ村で」です。先住民っぽい衣装から始まって、ケーララ州の名物と言える舞踊カタカリやモーヒニーアッタム、象祭りなどが登場し、二人の恋が熟成していきます。この中で、ムトゥがランガを楽器ヴィーナのように横抱きにして、それに「サファイアのヴィーナが…」という歌詞が重なるのですが、そこのパートを歌っているのは、何と!以前東京国際映画祭で上映された『世界はリズムで満ちている』(2019年。日本公開時の題名は『響け!情熱のムリダンガム』)のラージーヴ・メーナン監督のお母様なのだとか。映画祭の時秘話を聞かせてもらって、唖然としました。

④ティッラーナー、ティッラーナー

これはもう、想像を絶するデザインのソング&ダンスシーンです。空想の中で、恋愛感情の高まったムトゥとランガが舞い踊る、というシーンなのですが、6回も衣装とセットの色が変わるのです。オレンジ、緑、青、黄、黒、赤とメインカラーが変わり、細部のいろんなカラーリングも見事に変わります。よく見ると、登場するオブジェのあれこれもよく考えてあり、こういうコンセプトを考える美術監督ってすごいなあ、と思ってしまいます。誰だったんでしょう? 4K&ステレオでしかも大画面、超インパクトがありますよ~。

 では、『ムトゥ 踊るマハラジャ』を目一杯楽しんで下さいね!!(松岡環)