『BAUS 映画から船出した映画館』

若槻

6/7㈯~6/13㈮ ※火曜休館

2024年 日本

1時間56分 

配給:コピアポア・フィルム

監督・脚本:甫木元空

原作&エグゼクティブ・プロデューサー:本田拓夫

脚本:青山真治

プロデューサー:樋口泰人 / 仙頭武則 / 関友彦 / 鈴木徳至

企画協力:青山真穂

撮影:米倉伸

美術:布部雅人

衣装:宮本まさ江

編集:長瀬万里

音楽:大友良英

出演:染谷将太 / 峯田和伸 / 夏帆 / 渋谷そらじ / 伊藤かれん / 斉藤陽一郎 / 川瀬陽太 / 井手健介 / 吉岡睦夫 / 奥野瑛太 / とよた真帆 / 光石研 / 橋本愛 / 鈴木慶一

吉祥寺バウスシアターが遺し、引き継いだ「衝動」。

 2014年に多くの観客と文化のつくり手たちに惜しまれながら閉館した吉祥寺バウスシアター。

 本作「BAUS 映画から船出した映画館」は1925年に吉祥寺に初めての映画館として誕生した井の頭会館(略称:イノカン)からはじまり、MEG(武蔵野映画劇場)、バウスシアターに移り変わって閉館していくまでの約90年間を描いた映画である。

 とはいえ、決して閉館までを追ったドキュメンタリー映画ではなく、本作を監督するはずだった青山真治がバウスシアターの総支配人であった本田拓夫の著書や聞き書きを元に脚本にしたものだ。

 しかし青山はこの脚本を脱稿した後、2022年に逝去してしまう。残された脚本は、青山の教え子でありバンドBialystocksのボーカルや小説家など多岐にわたり活動する甫木元空が引き継ぐ形で再解釈をされつくられることになった。

 映画と出会い、青森の田舎から何かをつかもうとその衝動だけで東京にでてきた2人の兄弟・ハジメ(峯田和伸)とサネオ(染谷将太)は、偶然に映画館の支配人に拾われ、家族・仲間と出会い、時代に翻弄されながらも土地に根を張っていく。そこに集う人たちは大なり小なり何かをしたいという気持ちに溢れ、映画・またはそれにまつわる何かしらの表現活動を模索している。そのすべての根源は突き動かされる衝動だ。

 人生という困難の中で抗えないことに翻弄されたとしても、中指を立て続ける意志がそこにはある。

 甫木元空は青山のプロデュースのもと製作されたデビュー作「はるねこ」を撮る過程で、青山に「君の声は残したほうがいい」と伝えられ、映画と音楽という2つの表現に向かっていった。

 本作の音楽はバウスシアターや青山真治とも縁深い存在である大友良英が担当し、劇中の楽曲や登場人物たちが歌う労働歌など、音楽映画としても非常に豊かになっている。

 印象的なモチーフとして描かれる映画館の光と闇はもちろん、その靄がかったような空気や気配をより印象強くさせる煙草の煙、水面のきらめき、連続する手など。ドラマチックな展開や強烈な演出に頼らず、淡々と続く些細なものを遺そうとする眼差しが美しく感じられる映画だ。

 筆者がバウスシアターに触れたのは1度きり。

 2014年に閉館が決まり、連日バウスシアターにゆかりのある作品が上映され、様々なイベントが行われていた際に観たレオス・カラックス「ポーラX」の爆音上映。

 冒頭のスプリンクラー越しにゆっくりとカメラが移動していく庭のシーンと、廃工場でのノイズはきっとこの先も頭から離れないだろう。

 本作にも出演している井手健介は、バウスシアター館員として爆音映画祭などに関わり、現在は音楽家/映像作家として活動を続けている。その彼の衝動に魅了され、私はほぼ毎年のようにライヴを企画し、新潟に招き続けているのだから不思議だ。

 「バウスシアター」という劇場は、そのような衝動の受け皿として存在していたのではないか。

 そしてまた、甫木元空という新しい才能に出会うことが出来た。

 衝動は明日に続いている。

takesimm

《上映時間》
6/7㈯ 〇14:30~17:00 ☆舞台あいさつ
   【貸館】イヴェント 〇18:30開場 19:00開演
   上映記念公演 井手健介&甫木元空 幽体離脱ツアー 新潟編

6/8㈰~6/13㈮ 〇18:30~20:35  ※6/10㈫休館