ブルース・リー 生誕80周年リマスター復活祭2020(後編)

シネ・ウインド

〇『ドラゴン怒りの鉄拳』

 ブルース・リー主演第2作目。監督ロー・ウェイ、製作レイモンド・チョウ、撮影チャン・チェンチェー、武術指導ハン・インチェ、音楽ジョセフ・クー。みんな『ドラゴン危機一発』から続投です。どんな話でしょうか。ブルース・リーの主人公の師匠が死んでしまい、その葬儀の際に日本人と因縁が付いたところから始まります。道場に出向き、柔術家にワーッと取り囲まれる。そこから大暴れ。初っ端から凄いアクション。獰猛かつ華麗な連続蹴り。日本の柔術家たちは次々とグヘーッと伸びていくところ。今度は始めからリー自身が武闘の熱気を振りまく見せ場を用意している訳ですね。すると日本人は、この報復として師匠が遺した道場「精武門」を乗っ取ろうと画策してきます。しかも師匠は日本のならず者によって殺されたことまで発覚。日本人に対する敵対心が燃え盛り、怒りの敵討ちを決行するお話です。

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 ということで今度は悪しき日本人を相手にする抗日映画ですね。日本人からしたら気分のいい話ではありませんが、それでもブルース・リーは人気沸騰でした。やはり異質な存在なんですね。お話の内容としても、報復や敵討ちといった復讐劇にこだわりがあることが分かってきました。そうなってくると、あとはもうどうやって闘うか。ブルース・リーのカンフー、ヌンチャクの武芸。日本人の柔術、剣術の武道。どうやって避けて、どうやって流して、どうやって打ち返すか。この猛烈な競り合いが見どころですね。

 本作でリーと敵対する日本人、大日本虹口道場館長を演じたのは橋本力。『大魔神』、『妖怪大戦争』でスーツアクターを務めたことでお馴染みの俳優です。プロ野球選手から俳優へ転身した方で、強い目力を活かした演技を披露しました。本作の仇敵役として迫力ある殺陣を演じます。リーを相手に鬼のように斬りかかる見事な演技にご注目下さい。また本作には若き日のジャッキー・チェンがエキストラ出演、橋本力のスタントを務めた作品でもあります。ジャッキーのアクションキャリアの原点という意味でも本作は重要な一作なんですね。

〇『ドラゴンへの道』

 『ドラゴン怒りの鉄拳』に続いて実現したこの企画。これでブルース・リーは映画俳優として、アクションスターとして人気を不動のものにしました。本物の武芸のカリスマになりました。それだけこの作品は重要です。なんといっても、ブルース・リー自身が監督・主演・製作・脚本・音楽監修・武術指導を務めました。この並々ならぬ気合の入りよう、本当の全身全霊です。どれだけの入魂作か。

 イタリアのとある中華料理店がマフィアに立ち退きを迫られているということで、主人公の青年は香港から助っ人としてやってきました。例によって華麗なドラゴン殺法とヌンチャク武芸でマフィアを撃退。するとマフィア側はアメリカ人武道家を召喚し、香港のカンフー使いと対決させようとします。そういう話でありますが、まず、『ドラゴン危機一発』と『ドラゴン怒りの鉄拳』と比べますと、明らかに作風を変えています。どなたでも楽しんでもらえるよう作っている感じですね。音楽の入れ方。ブルース・リーの演技、これまでより肩の力を抜いているようで、茶目っ気ある笑顔を多く見せます。勿論、アクションシーンは真剣そのもの。このあたりがいいですね。

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 本作でアメリカ人武道家である大敵を演じるのがチャック・ノリスです。軍人から格闘武術家、そして俳優として大成したことで有名な方ですね。もともとブルース・リーとは武術家同士として仲が良かったんです。俳優としてデビューすることを勧めたのもリーでした。『ドラゴンへの道』に敵役として出演依頼もしました。クライマックスでは凄い一騎打ちを披露しますが、本物の格闘俳優2人によるアクション設計です。それがどれだけの名勝負となったか。アクションファンの方で一番の決闘場面として『ドラゴンへの道』を挙げる方も多いのではないでしょうか。ブルース・リーのカンフー。チャック・ノリスの空手。それを見守る猫。これをまだ知らない方、是非ご覧ください。これが勝負。これが一対一。これがタイマンですね。お見事でした。

 この映画の撮影監督は日本人なんです。西本正さん、名キャメラマンです。35歳で撮影技師デビューして、36歳で香港に渡って映画撮影を務めています。特筆すべきは新東宝、中川信夫監督作品の撮影にあたったことですね。日本怪奇映画の代表傑作、『亡霊怪猫屋敷』、『憲兵と幽霊』、『東海道四谷怪談』を撮影しました。その後再び香港に渡り、ホー・ランシャンの名義を用いて多数の作品を手掛けました。武侠映画ブームを巻き起こした傑作、キン・フー監督の『大酔侠』の撮影にあたり、代表作の一本となりました。そのキャメラマンが、ブルース・リーとチャック・ノリスの武闘を撮ったわけです。凄いことですね。演技、アクション、撮影。もうすべてが見どころです。カンフー映画の絶頂。絶対にご覧ください。

〇『死亡遊戯』

 これは映画史に残るほど執念が費やされた作品ですね。クライマックスのアクションシーンを撮影した後、ブルース・リーが急逝したため、未完の作品として終わるはずでした。そこで『燃えよドラゴン』のロバート・クローズ監督を招いての追加撮影と編集、代役を立てての再撮影によって完成へ漕ぎつけた、ブルース・リーの最後の作品です。撮影を始めてから約6年の歳月をかけて公開されたわけですね。

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 ストーリーも、ブルース・リーの活躍と想い出に捧げるようなかたちになっています。香港の映画スターであるビリー・ローと国際犯罪組織の闘いです。『ドラゴン怒りの鉄拳』の撮影中に組織の凶弾に倒れたビリーは、死を偽装しながら報復を画策するわけですね。組織の戦闘員、バイカー軍団、武術家たちとの闘いが描かれます。劇中で「本物の」ブルース・リーが闘うのは後半の見せ場になります。五重塔を駆けるシーンですね。最初に撮影されていたシーン。代役を演じていた方には失礼ですけれど、リーの姿が映ったときの意気、感慨。このときの闘いの場面。リーが既にこの世にいないことを知っているお客さん方は、じんわりと固唾を呑んでその勇姿を見詰めたことでしょう。そしてどれだけの武芸とアクションをお披露目したか。是非ご覧になってみてください。

 この映画で一際印象に残る敵役を演じたのが、カリーム・アブドゥル=ジャバーですね。とにかくデカい。手足が長い。218cmある人です。レイカーズの名選手だったんですね。なんでこの人がリーと闘う役をやったか。リーの弟子だったんですね、ジークンドーの。バスケの名選手で、格闘スターの弟子。凄い人です。師弟共演だったんですね。その体躯を活かして、師匠演じる主人公を苦しめる役。激闘を見せました。映画の見事な見せ場になりました。

 『死亡遊戯』の特徴の一つは音楽ですね。勇壮なテーマがいいですね。作曲者はジョン・バリー。あのジョン・バリー!?もうビックリですね。『007』シリーズ、『野生のエルザ』、『冬のライオン』、『真夜中のカーボーイ』など。娯楽大作、人間ドラマ巨編を多く手掛けた名作曲家です。この人がついにブルース・リーの活劇に音楽をもたらしました。見事に高揚感を誘発させましたね。これも大きな注目点です。

〇さいごに

 ブルース・リーの生誕80周年としてより鮮やかな映像で、迫力ある音響で、ゴールデン・ハーベスト四大傑作の再上映となりました。リーは1973年に亡くなり、だいぶ経ちましたが、世界中大多数の人々の活力の源泉として今も生きているわけですね。2020年、コロナウィルスの感染拡大によって人類は岐路に立たされています。そんななかでの猛龍復活祭。これも偶然の巡り合わせでしょうか。世界中で元気がなくなりつつある状況でこそ、ドラゴンが蘇って来る。沈みゆくときこそヒーローの存在が望まれる。あの表情、あの仕草、あの鉄拳がスクリーンに映し出されるこの機会によって、人類全体の血行が促進され、前向きな日々の営みを取り戻すきっかけのひとつにでもなったなら幸いですね。

上映企画部 若槻