『退屈な日々にさようならを』

シネ・ウインド

 専門学校ENBUゼミナール主催の劇場公開映画製作企画、シネマプロジェクトの第6弾。今泉監督の代表作となった『サッドティー』を手掛けたスタッフが再結集。「映画をつくること」、「大事な人を亡くすこと、思い続けること」をテーマにした群像劇。2017年2月以降、全国劇場公開され、シネ・ウインドでも2017年11月に限定上映した本作。若者たちの恋愛事情を描いてきた今泉監督が、「この映画はどこを切り取っても私です。私と私の考え方についての個人的な映画です」と述べ、ファンから注目されて話題になりました。映画監督の行き詰まり、身近な人の死去、大震災を経た地元・福島でのエピソードなど、観ていくとなかなか感慨がありますね。そうなると映画作家・今泉力哉を知らないと、この映画は面白くないのかなというと、そんなことはありません。今回大きく公開した『街の上で』で初めて監督作に触れたという方も、『退屈な日々にさようならを』で初めて観るよという方も、普段映画自体をそんなに観ないよという方も、この機会に本作を観届けてみてもらいたいですね。

 この映画は東京での出来事を描いた前半と、福島での出来事を描いた後半とで分かれておりまして、それぞれ主役となる人が別々なんですね。前半は矢作優さん演じる売れない映画監督が、公私ともにうまくいかなくて、新作の準備も、人付き合いも、運よく入ったミュージックビデオの仕事も、消化不良の糞詰まり状態。さらに思いもよらない事態に直面します。目の前で世話になった人が急死してしまい、何故か遺体を埋めに行くということになる。もうどんどん困ったことになる。一方、福島ではとある造園業を営む会社が廃業となる。内堀太郎さん演じる経営者のお兄さんには双子の弟がいるようで、ずっと前に出ていったきり会えずじまい。今も生きてるのかどうかも分からない。お兄さんは福島で慎ましく暮らしておりましたが、それから数年経ったある日、弟の彼女ですと名乗る人から電話を受けて、その人が東京から訪ねてくる。本作の重要人物となる彼女さんを演じるのは松本まりかさん。どんな考えでわざわざ出向いてきたか。どんなことを話し出すのか。

 映画の前半で主役を務めるのは、公私ともに器用にやっていけない売れない映画監督。後半から主役する双子兄弟の苗字が「今泉」、舞台となるのは監督の地元である福島。さらに監督の実家で合宿して撮影しているくらい。飲みの席で止まらない映画の愚痴。人と人の方向性の違い。人が誰もいなくなった公園。人が必要とすること、なくなったならどうやっていくか。『サッドティー』で「ちゃんと好き」について考察して描いて見せた今泉監督が、個人的な思惑を持ってこの映画の脚本と監督にあたりました。『サッドティー』や『街の上で』とも通じるようで異なる人間感覚と喜怒哀楽を思わせる日本映画のオリジナルを作りました。撮影は『愛がなんだ』、『街の上で』など多くの作品で今泉さんの右腕を務めるお馴染みの岩永洋さん。『退屈な日々にさようなら』でも、いろんな考えや日常を持っている人と人の向き合いをじっくり撮り下ろしています。個人的には矢作優さん演じる映画監督が若手女優のマネージャーさんとMVの出演交渉で口論してしまう場面と、松本まりかさんが、本作で役者デビューを果たした安田茉央さんと感情的になってしまう場面が特に良くて見入ってしまいました。内堀太郎さん、矢作優さん、皆さんそれぞれ生活感を持ったいい演技して見せます。

 シネ・ウインドでは『街の上で』のロングラン上映のあと、5/15(土)~5/21(金)の1週間、今泉作品の連続上映というかたちで再上映します。どうぞ劇場にてご鑑賞ください。

上映企画部 若槻