ベビわる2応援企画『ある用務員』『ベイビーわるきゅーれ』復活上映

シネ・ウインド

 いま日本映画界を引っ張るような人気監督と言えば今泉力哉さん、城定秀夫さんと、阪元裕吾さんですね。3人とも映像の創意に溢れ、監督をしていないと死んでしまうのではないかというぐらい、個性的な新作の発表を続けている勢いある方々です。今回は阪元監督の新作がお待ちかね全国ロードショーということで、そのタイミングに合わせた上映企画を強行。関連する話題の2作品『ある用務員』と『ベイビーわるきゅーれ』を復活上映する試みです。1週間という短い間ではありますが、これを機に思う存分ハラハラして面白がってください。

 アクションもので『ある用務員』というと、題名を聞いただけで興味を持たれる方はなかなか鋭いと思います。そう、主人公は用務員さんなんです。学校用務員。または学校技術員。学生時代、お世話になったこともあれば、一度も関わることのなかった人もおられるでしょうが、用務員は学校環境を整備する大事な務めをされています。学生時代が楽しかった、部活動に打ち込めたなど、良き青春時代は教員や指導員のみならず用務員の働きがあってこそ。そんな学徒や教諭と共にある用務員が、暗殺者だという構想。これがアメリカだったら、トム・ベレンジャーみたいな教師が主人公で生徒のために悪の武装勢力と戦うアクション映画なんでしょうけど、用務員が『レオン』や『イコライザー』みたいに殺人技術を発揮するという脚本と撮影、アクション設計に日本人の底意地を感じました。しかも用務員の福士誠治さんを親代わりに育てたのが日本のジェイソン・ステイサムこと山路和弘さんだから、面白いもんですね。

 この用務員が、親父の組兄弟の娘さんを見張り、助け出すために戦い始める修羅場アクション。図書館の銃撃戦からの激しい決闘は大きな見せ場になります。アクション監督にあたっているのはスタントチームゴクゥ所属の出口正義さん。三池崇史監督や矢口史靖監督作品、『ばるばら』『罪の声』など、多数の日本映画で動作振付の演出を務めている経験豊富なコーディネーターです。アクションもそうですが、キャストも面白い。ヤクザ、刑事、頑固親父で画を引き締め続ける大御所、渡辺哲さん。石井裕也監督の後輩で、ジョニー・トーからも演出の才能を認められている売れっ子の才人、前野朋哉さんがこの映画に個性とブラックユーモアをもたらしています。これまでの阪元監督は、一部では注目されたものの、まだまだマニアックな存在感でした。ところがこの映画で、裏社会、抑圧された心理、現代的な多様性、ハードアクション展開と日本映画の行き詰まりを打破する意気を込めてこれを演出しました。日頃から暴力団抗争など日本の暗部について見識を深めながら、マニアックなジャンルものを誰もが面白がれるような映画にしてみせるという監督精神がぐいぐいと現れてきました。『ある用務員』は阪元監督の自主映画製作から商業デビュー、いまの人気沸騰期への橋を渡すかのような、アイディアと撮影編集センスを感じ取りやすい一作です。『ベイビーわるきゅーれ』と併せてこの監督をまだ知らない方は、現代日本映画の沼にハマるきっかけとなってもらえたら上映企画の冥利に尽きますね。

 『ベイビーわるきゅーれ』というのもまた面白いタイトルで発表されましたが、これをもって阪元監督は人気演出作家の仲間入りを果たした印象ですね。女子高生のヒットマンが卒業を機に世間の荒波に緩くもまれ始めていく姿を描いた異色青春アクションコメディになっています。『ある用務員』にも登場していた殺し屋コンビの伊沢彩織さんと髙石あかりさんを主演に、殺し屋業界と萌えの時代を生きる友情・努力・暗殺をテーマに描いた、老若男女から海外の映画ファンまで面白がれるような日本映画となっています。日本女子コンビの可愛らしいところと凶暴なところがどちらも見られて溜飲が下がると評判になり、ベビきゅーらーなるファン支持者が集い始めるほど大当たりになりました。伊澤さんは埼玉県出身。幼い頃いじめに遭うなど辛い経験を経ていますが、心身を鍛えるべく発奮し、アクションやスタントパフォーマーの道へ進んだ注目の逸材。その能力を活かしてハリウッド映画にもスタント出演されているほどです。髙石さんは宮崎県出身。ダンスヴォーカルユニットα‐X’s(アクロス)を経て、舞台・映像ともに出演が続く若手女優。伊澤さんとは意外と年齢差がありつつも殺し屋女子という名コンビっぷりを発揮、テンションの高い役に溶け込み、映画初主演にして代表作となりました。アクション監督は『BUSHIDO MAN』『HYDRA』などU’den Flame Worksの園村健介さん。撮影は『恋のクレイジーロード』『許された子どもたち』など幅広い話題作にあたっている伊集守忠さんが務めています。両作とも、映像編集は阪元監督が務めておりまして、アクション設計から撮影、編集まで、計算より感情的に完成させたそうです。そういうこともあってアクションに堅さを感じないんですね。淀川さんが「映画は頭で観るんじゃあなくて、目と感覚で観なさいよ」と言っていたのを思い出しますね。

 昨年、上映企画会議で企画を発足させた際、最初は阪元監督特集をやらせてほしいと言いました。少し時間がたって、続編『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』の公開が決まると、新作の応援を兼ねた2作品の復活上映企画でいこうと方向を固めました。1週間という短い期間ではありますが、シネ・ウインドではこちらのほうが観てもらいやすくてよかったと思います。阪元監督にシネ・ウインドのことを知ってもらえたのもよかった。監督はブルース・ウィリス主演の『デス・ウィッシュ』や『Mr.ノーバディ』のような手堅く面白く楽しめるアクション作品が日本映画に少ないことを痛感しつつ、新作を手掛けているそう。間口を広く、誰でも楽しんでもらえるような作りを心掛ける。日本人は真面目で堅くて窮屈だから、こういった演出精神こそ大事ですね。『ある用務員』と『ベイビーわるきゅーれ』の2作品によって男らしさと青春期特有の緩さを描画。第一級の殺陣を取り入れて、拘りと個性を磨きつつ、ドーパミンが合成される映像を繋ぎだす。誰もが面白がれるものを作り出すことは、商業映画の目的であり、映画製作の最難関。いま脂の乗りきっている阪元監督は業界を席巻することに挑戦的で着実に順調な段階を経ている人。福士誠治さん、芋生悠さん、伊澤彩織さん、髙石あかりさんという、凄い逸材が活躍されていることをもっと知ってもらいたい。日本のアクション映画がネクストレヴェルへ登り進んでいることに驚嘆してほしい。ベビわる2応援企画、盛況を願います。

                                             宇尾地米人