独裁者たちのとき

独裁者たちのとき
2023/8/58/11
独裁者たちのとき

圧倒的な映像、震撼する音響とともに描く、まったく新しい史劇の誕生‼

深い霞に覆われた色のない廃墟の中で男たちが蠢いている。ヒトラー、スターリン、チャーチル、ムッソリーニなど第二次世界大戦時に世界を牛耳っていた独裁者たちだ。煉獄の晩餐が始まると、お互いの悪行を嘲笑、揶揄し、己の陶酔に浸っている。〈地獄〉のようなこの場所で〈天国〉へと続く扉が開くのを待っているのだろうか…
ダンテの「神曲」を彷彿とさせる冥界を舞台に、神の審判を受けるため20世紀の独裁者たちが天国の門を目指し彷徨う姿が、時には滑稽に、時には暴力的にそしてシュールに我々の生きる現代を貫き、未来を予言する。圧倒的な映像、震撼する音響とともに描いた、まったく新しい史劇の誕生‼

カンヌから拒絶された問題作!

くしくも、ロシアによるウクライナ侵攻の年に完成した本作は物議を醸し、上映を予定していたカンヌ国際映画祭でのお披露目は数時間前に中止になった。

煉獄の廃墟の一室。匂い立つような花に包まれた棺の中、遺体のヨシフ・スターリンが「ブーツがきつい」と目を覚ます。同室には痛みを訴えるキリストが横たわる。「早く父なる神のもとへ行け」というスターリンに、キリストは「皆と同じように列に並んで審判を待つ」と答える。それを皮肉の笑みをこぼしながら上から見下ろすのはアドルフ・ヒトラー。軍服のスターリンを脇からウィンストン・チャーチルが覗いている。「お前はすでに臭い」「お前も臭い」。3人は互いに悪態をつきながら、天国の門に向かう旅に出た。道中でベニート・ムッソリーニが合流。4人は、自らの功績を称えたり互いを罵ったり嘲笑しながら、彷徨うように歩を進める。お喋りが止むことはないが、果たして互いの言葉は聴こえているのだろうか? 既に生身の人間ではないからなのか、時に分身が現れ、正装のチャーチル、外套姿のチャーチル、軍服のチャーチルが一堂に会しては、分身同士、互いに「兄弟」と呼び合ったりもする。こうして、天国の門を目指し、煉獄を彷徨う4人の旅が始まったのだが…。