過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道
2021/9/49/17
前売券:1400円 クリアファイル付き
過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道

2018年秋、世界最大の写真の祭典「パリ・フォト」で伝説の写真集が半世紀ぶりに甦った。写真家のまわりは黒山の人だかり。ていねいな文字で〝森山大道〟とサインする姿を、世界中から集まったファンが、熱いまなざしで見つめている。熱狂の列は途絶えることなく、人々は次々に押し寄せてくる。いったい何が起こっているのか──。

2018年春、森山のデビュー作『にっぽん劇場写真帖』復刊プロジェクトが始まった。1968年に誕生したこの写真集は、コレクターの間で高額で取引されるのみで、その全容が一般の目に触れることはほとんどない。あの傑作をもういちど出版したい。そう言い出したふたりの男がいる。ひとりは、継続的に森山の写真集を世に送り出してきた編集者・神林豊。もうひとりは、森山作品を含め、多くの写真集を手がける造本家・町口覚。敬愛する森山の処女作を決定版として世に送り出すべく、ふたりの奮闘がはじまる。

同じころ、東京で小さなカメラを構えるひとりの男がいる。彼は路地を抜け、脇道に分け入り、街の息遣いを次々に複写していく。その様子は都会を彷徨う野良犬を思わせる。
森山大道、80歳。オリンピックを前に激変していく東京の姿を、コンパクトカメラ1台で大胆に切り取っていく。ハンターのように。
これまでほとんど知られることのなかった森山のスナップワークを、映画はていねいに拾い上げていく。新宿、池袋、秋葉原、中野、渋谷、神保町、青山……。激変する東京で森山は何を見つめるのか。街と写真家はどう火花を散らし、いかに共鳴し合うのか。魔法のような傑作はどんなふうに生まれるのか。決定的瞬間とは何なのか。謎めいた写真家の素顔を、映画はすこしずつ解き明かしていく。

編集者と造本家は『にっぽん劇場写真帖』決定版制作に賭けていた。この膨大な写真群は、いつ、どこで、どのように撮られたのか──歴史的資料として後生に残そうと、事実関係に執着するふたり。一点一点、来歴を粘り強く確認し、執拗に問い質し、本人の記憶を解きほぐそうと試みる姿は、取り調べに挑む刑事さながら。その作業は、森山の人生におけるかけがえのない思い出、いまはもう会えなくなってしまった仲間の記憶、痛みや絶望、迷いと不安をあぶりだすとともに、それらを来たるべき希望へとつなげていく。

写真とは何か。生きるとは何か。これはひとりの写真家の彷徨の記録である。