ヒトラーに盗られたうさぎ

ヒトラーに盗られたうさぎ
2021/4/174/30
ヒトラーに盗られたうさぎ

 1933年2月。ベルリンに住む9歳のアンナ・ケンパーは、兄のマックス・ケンパーと共にカーニバルを楽しんでいた。その夜、風邪をひいて寝込んでいる父=アルトゥアとクラシックのコンサートに行こうと準備をしていた母=ドロテアが深刻な顔で話し込んでいた。平和な家族の風景が、その夜から大きく変わっていく。
 翌朝アンナは「家族でスイスに逃げる」と母から突然告げられた。ユダヤ人で辛口演劇批評家の父は、新聞やラジオでヒトラーの批判を続けていて、次の選挙でヒトラーが勝ったらヒトラー反対者への弾圧が始まるという忠告を受けていたのだ。アンナは、大好きな“ピンクのうさぎのぬいぐるみ”やお手伝いさんのハインピー、食卓、書斎、ピアノ、台所…と一つ一つに別れを告げて大好きな家を離れる。

 スイスでアンナはすぐに近所の女の子と大の仲良しになり、生活に馴染んでいく。しかし、訪ねてきたユリウスおじさんから、ベルリンの家のものはナチスが何もかも奪っていったことや、強制収容所のことを聞かされる。家に残していった大好きな“ピンクのうさぎのぬいぐるみ”もヒトラーが奪ってしまった。やがて10歳になったアンナは、父から「スイスでは仕事がないから、パリでユダヤ人の新聞社へ行こうと思う」と告げられる。
 パリでは学校に通っても言葉が分からず、友だちもなかなかできないアンナ。当てにしていた父の新聞社での仕事は小さなコラム一つだけ。それでも父のわずかな原稿料で家族4人、つつましく暮らしていく。そんな家族に希望の光が輝き始める。アンナがフランス語の作文コンクールで優勝、そして父が書いたナポレオンを主人公にした脚本がイギリスで売れ、イギリスへ引っ越すことになる…。