シネ・ウインド30年目記念インタビュー 第8弾 新潟お笑い集団NAMARA代表 江口 歩

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※このインタビューは、月刊ウインド2015年7月号に掲載されたものです。

毎朝、子どもと映画

江口◆今、子どもとね、毎朝映画見たりしてるのよ。売ってるのを買って見るわけなんだけど、全部ハリウッド映画なんだよね。思いっきりアメリカなんだ。そりゃあ、アメリカの文化に染まるよね。だから他の国の映画が手に入んないかなって思ったわけ。トルコ映画とか、中東とか、イスラム圏の映画とか。でもないよね。市販されてない。
――お子さんは、おいくつですか?
江口◆小学校4年。この間、「スタンド・バイ・ミー」見て喜んでた。
つまり、日本の市場ってアメリカどっぷりなんだよね。
――今はそれでもまだ、他の国の映画が入ってくるようになったんじゃないかな。以前はもっとアメリカの映画しかなかったと思う。
江口◆なんで、こんなグローバルって言っておきながら、いろんな国々の映画を普及させないのかね。売れないっていうことがあるんだろうけど、中にはおもしろいの、あるんじゃないの。
――あるある。それはもちろんあります。
江口◆宣伝にかける予算がないとかさ。だから中東のことなんかわかんないじゃない。宗教も違うからなおさらだよね。
――宗教も違うし、歴史もわからなかったりするし。映画を見ても、意味がわからない時があるんですよね。(映画の中で)なんでこの人たちが笑っているのかわからない、とか。
江口◆それだと、ついていけなくなっちゃう。
――そうそう。それでも見たい、興味があるという人たちはいいけど、そうじゃないと最初から見に行かないかもしれない。
江口◆そういうの、ちょっとでもアプローチの道筋を作っていかないと、という気がして。
――インドでたくさん映画を作ってるというのは最近有名になったけど、アジアとか、アメリカ以外の国で映画を作ってるって、ピンとこないかもしれない。
江口◆インド料理店でビデオが流れてるじゃない。あれ見ると、すっごく欲しくなるのよ。でも売ってない。
――日本だけじゃないんですよ。フランスでもフランス映画を見ないでハリウッド映画を見てる人のほうが多いらしい。だから、フランスや韓国とかだと、映画館は自国の映画をある程度上映しないといけないという自国映画産業保護政策をしていたりする。日本はそういうこと、やってないから。
江口◆ハリウッド映画にはドンパチが多いじゃない? それをずっと見てると、どっかに何か浸み込んでいるような気がする。子どもに見せてて、ちょっとこれ、偏っちゃうぞって思ったんだよね。だから、どっかにシフトしようと思ったんだけど、その材料がない。
――洋画がいいんですか。日本映画は?
江口◆日本のことはもちろんいいと思うんだけど、もっと、文化が違うとかさ。
――異文化体験、ですね。まさに、「にいがた国際映画祭」がぴったり。この映画祭は、映画を通じて「多文化共生・異文化理解」を進めることを目的にしてるってことだから。

常識は環境によって変わる

江口◆トラブっているのって、ほとんどの原因は偏見からだからさ。
――そうですね、知らないから。
江口◆偏見を知らず知らずに作っているんだよね、アメリカ寄りの文化にどっぷり浸かって。自分は、初めて行った海外旅行が台湾で、そこでは女子高校生が脇毛を伸ばしていてショックだった。で、同時に生っぽさがあってドキッとしたり。その後、2番目の海外旅行はヨルダンで10日くらいいたんだけど、そこでは陰毛も剃る習慣があるわけ。俺、一方では脇毛がある国に行って、一方では陰毛のない国に行って。30代に入ってそういう体験して、常識なんか環境によってコロコロ変わるんだってわかった。そのおかげで、日本だって環境・状況が変わると常識が変わるって置き換えられるから、この目線でいいのかな、っていう判断になっていく。外の情報もわからない、アメリカどっぷりってなっちゃったら、イスラムや中国の話を聞いて、偏見持って当たり前じゃないか、とかね。
――知らないだけならいいけど、他の国への偏見が入っているものばかり見てると、偏見が移っちゃうかもしれないですね。
江口◆今、古い映画がおもしろくて見てるんだよね。マリリン・モンローの「荒馬と女」なんかでも、アメリカも、生と死の価値観が今と違ってたりする。それと、日本も時代がガラガラと変わってるんだよね。少子化とか、年金とか、どうやって対応するのか、俺らが前例になるんだよね。今、答えがないもん。みんなどう思ってるのかな、気になってしょうがない。
――考えないようにしてるとか?
江口◆目先のことでいっぱいで、そんなこと考えてられないんじゃないかな。
――いつのまにか、すごい忙しさになった気がしてる。毎日が忙しすぎる。
江口◆忙しい方が洗脳しやすいよね。騙しやすいというか。だって余計なことを考える暇、与えないんだもんね。
――江口さんもすごく忙しそうですよね(笑)。
江口◆いやいや、みんな勝手に俺が忙しいと思ってて、携帯に電話かかってこなくなっちゃったもんね(笑)。俺は集団抱えていて分散できるから、まだいいと思うよ。経理やってくれる人もいるし、営業やってる人もいる。みんな補いあいながら成立しているから、俺は俺の役割として時間を有効に使えて、むしろ忙しくない状況に身を置ける。
――今、何人くらいいらっしゃるんですか? 社名は「ナマラエンターテイメント」ですよね。
江口◆うん。社員としては10人くらい。
――その他に芸人さんとか?
江口◆前までは芸人も社員にしてたけど、2年くらいになるのかな、みんな独立させた。芸人たちが、僕がNAMARAを立ち上げた年になったんで。30でしょ。もう立てっていうことですよね。喧嘩するとか、奪い合うってことじゃなくて。契約書を交わしているわけじゃないけど、ゆるやかな共同体だよね。
――NAMARAの立ち上げは97年。ウインドとの関わりはそのちょっと前くらい?
江口◆青年ネットワークに関わったころだから、95年くらいだと思う。NAMARAをやろうか、みたいな話になってから、みんなから齋藤さんに会ったほうがいいよ、というお勧めをいただいて、ウインドに来たって感じかなぁ。

食べていける仕組み

江口◆この間、(ウインドの)齋藤さんに「お前なんか、俺を避けて…」とか言われたんだけど(笑)。避けてたんじゃなくて、つまり、NAMARAを立ち上げた時、笑いでやっていくんだって言ったんだけど、すぐにそれでは成立するのが難しいんだってわかっちゃったわけよ。ライブだけで回していくっていうのは相当難しい話だと。ど素人ばかりの集団で、スポンサーだってつかないし、応援ゼロだったからね。だから司会の仕事を入れたり、テレビだったり。じゃあ、お客さんを集めたり、次の展開をするために、方々に連携を取らなくちゃいけないな、演劇界、テレビ局、映画。立ち上げ当初、俺らは生意気だったから、けっこうみんなから嫌われてたんだよね。挨拶ができないとか、急にぽっと出て、好き勝手やってるとか。芸人は当時、高校生とか20歳前後の連中がほとんどで、そいつら、俺が一番おもしろいんだ、っていう妙なプライドがあって、ちょっととげとげしたり、ぎすぎすしたり、なんかとがってた時期だったから。煙たがられるというか、しっかりせいっていう状況になったわけですよ。各方面といろいろ繋がろうとしたけど、新潟の演劇人やエンタメ系の人はおおむね、これだけで食べていこうという感じではないし、新潟から全国発信という感覚でもない。お金もないし。だから経済人と付き合おうと(笑)。お金持ちとも付き合って、仕事で回してかないとこれはヤバイことになるぞと言って、しばらく文化人から遠ざかったっていう時があったわけ。

基本的には会社っていうか、みんなが食べていく仕組みを作りたい。バイトとかしないでNAMARAっていうカテゴリーの中だけで、それだけで食べていける仕組みを作ろうと。でも結構、シネ・ウインドで一緒にやったりしましたよね。大阪の映画の時とか、その他にもちょこちょこっと以前はありましたよ。
――ここしばらくはそういうのないですね。
江口◆もっとやりたいんだけどね。
――ぜひ、ぜひ。

全部アドリブ?!

――江口さんは講演が多いですよね。
江口◆全部しゃべりだし、全部アドリブ。下書きはいっさいしないし、同じ話を再生できないです。毎回、雰囲気と反応とが違うから。テーマもバラバラだし。
――引き出しがいっぱいあるってことですね。
江口◆それはNAMARAやってたから。NAMARAは仕事を断ったことないからね。なんでもやってよかったってことですね。
――いつの間にか幅広くなっちゃって、行政とか、警察関係との仕事も多いみたいですね。
江口◆警察は、のりピーが捕まった時に、芸能事務所を洗えってことで、うちに来たんだけど、NAMARAにはクスリを買うお金がないって、とんでもない結論を出しやがって(笑)。こんな余裕がない会社なら大丈夫だろうって(笑)。全国初ですよ、警察とタッグを組んだ芸能事務所。その他、講演行って話したらそこが保護司の会で、それで保護司をやってくれないか、ってなったりだとか。みんな言われたことを掴んでいってるだけですよ。
――江口さんは小さいお子さんがいらっしゃるんですよね。
江口◆3歳と5歳と9歳。楽しいよぉ。朝、4時半に起きて一緒に映画を見て。だから、映画ね、もうちょっとおもしろい映画ないかなぁと思っているのよ。たぶん、あんまりいないと思うよね、毎朝映画見てる子どもって。
――うん、いないと思う(笑)。そもそも、映画自体あんまり見ないですからね。親と一緒に映画見るっていうのも、あまりないかも。
江口◆俺の母親は今81歳だけど、今も一緒に映画見に行くよ。

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シネ・ウインドのこれから

江口◆ウインドは30年目。今後こんな方向、ってのはあるんですか? なんとなく、でも。
――30年はまだ途中。ウインドは50年が目標だから、別に30年経ったって言っても、まだまだだよね、目標は先だよね、っていう感覚は大事にしたい。アンケートでは、「このままでいい。続けてほしい」という回答が多いです。フィルムからデジタルへだけでなく、映画自体もその環境も変わってきているので、今後、映画館というものがどうなってゆくのか、正直わからない。だからどの映画館も、映画以外のライブやスポーツ中継をやったりして、映画だけじゃない道を探っている。シネ・ウインドも例外じゃない。でも、私は、それはそれで違う気がするんですよね。
江口◆映画館で、海外の映画館と同時対談みたいなのはできないの? 単館どうしで、向こうにもシネ・ウインドのようなスタッフがいて、こっちにもいて、お客さんもいて、映画を通して情報交換できるような。
――それはおもしろそうですね。
江口◆でっかいスカイプみたいなもの。トルコとかヨルダンとかの映画館ってこうなってんのか、なるほど、って、通訳たててさ、ちょっと映画文化トークみたいな。そっから、社会情勢も含めてね。日本のこのショートフィルム見てもらえる?どう?って言ったら、こんな文化があるのか、とか、そう見えるのか、今のご時世に日本ってこんなの流行ってるんだ、なんていう映画交流、したいよね。
――技術的にはいろいろ難しいだろうけど、素敵なアイディアですね。その土地の人の説明を聞きながら映画を一緒に見れたら、おもしろいだろうな。これは宗教的にこういう意味があるんですよ、とか。
江口◆そうそう、この笑いの意味は、とか。
――教えてもらえたら嬉しいですね。日本映画でライブコメンタリー上映とかやったことはあるんだけど、外国映画のほうがおもしろいかも。

小学生が入りびたりになる映画館

江口◆たとえば、今、お客さんの層の1番下ってどれくらい?
――高校生くらい。多くはないです。
江口◆小学生がわっとくるような映画をやってくんないかなぁ。俺、子どもと映画見たいんだよね。
――小学生が見たがる映画は、シネ・ウインドでは確かに少ないですね。
江口◆それがわかってるから、これからは挑戦してもらいたいというか。子育て中のママがここにエスケープしてくるとか、乳児と来ても乳児が泣かない映画、とかね。
――「小さき声のカノン」という映画を上映する時に1回、「おやこ上映」といって、場内をちょっと明るめに、真っ暗にしないで上映する予定があります。〈6/24に実施〉
江口◆映画見て、子どもって不思議なこと言うよ。あぁ、時間が全部支配してるんだ、この世はって。でもさ、この間の映画はお金が全部支配してるって言ってたよね、なんてさ。「荒野の七人」を2度くらい見てる。「ダイ・ハード」なんかよく見てたよ。「ミッション:インポッシブル」、「007」の古い方とか。昔のMの作ってた秘密兵器が今の子どもには合っているっていうか(笑)。
――どうやったらお客さんがたくさん来るかの話も聞きたいな(笑)。
江口◆お客さんが来るんじゃなくて、何を上映するか選ぶのがお客さん、とかね。ウインドで映画を見る、一番多い層ってどこなの?
――たぶん50、60代の女性。シネ・ウインドは男のお客さんもわりと多いけど、劇場でもデパートでもその層の女性が多いですよね。
江口◆うちの母親なんかは、10代のころ、映画ばっかり見てたって。シネ・ウインドの近所の、南万代小学校の生徒が入りびたりになるようにできないかね。将来のお客さんのことを考えて、値段は小学生300円、とか。
――今は、小学生の入場料は1000円。会員の子どもだったら500円だけど。
江口◆放課後、5時とか6時とかには家に帰れるくらいの上映時間で、300円で見られるような企画とか。「小学生デー」でもいいけどね。俺、息子に見せたいんだよね、映画を。

映画学童保育

江口◆新潟で活動している人たちとうまく連携すればいいのに。映画上映にあわせた前説なんかをどんどん。この場所でちょっと一言、しゃべってくれない?みたいなの、やってもいいんじゃない? (今後の上映予定作品を見て)こういう映画に連動している人、たくさんいるよ。みんな紹介できるよ。
井上◆ご紹介いただければ会ってみたいです。
江口◆せっかくだから、俺ももっとシネ・ウインドに関わりたいよね。
井上◆実は、30年目企画の「サンデーナイトライブ」は、NAMARAさんに使ってもらえたらなと思ってたんですよ。
江口◆なんかおもしろいことしたいよね。できればこれまでやってきたこととは違うことをしたい。それと、小学生が放課後、映画館行こうぜ、みたいな。見てておもしろくて、アメリカに毒されてなくて。映画っていう学童保育があってもいいじゃん。映画学童保育。
井上◆やりたい。いいですね。今、2ヵ月にに1回、上山小学校で似たようなことをやってるんですよ。放課後、16ミリフィルムを持っていって上映してる。
江口◆映画学童保育。その時に、おもしろくて楽しくて、皮膚の穴から浸みこむような映画、海外の文化の違いがわかるような映画を見せてあげたいよね。
井上◆可能性だけはつぶしたくないですよね。子ども向けになんかやりましょうか。
江口◆お母さんにも開放してあげたいよね。お母さん、ここに2時間子どもを置いて、思いっきり買い物してきてください、くらいの、映画託児所みたいなのとかね。映画をチョイスする、子どもが喜ぶ映画ソムリエみたいな人、いないのかね。
井上◆映画業界で、10歳以下の子どもに見せたい映画ベスト10なんてありますよ。イギリスの映画業界が選んだ小学生に見せたい映画とか。
江口◆NAMARAとシネ・ウインドで、子どもが喜んだ映画談議とかね。
井上◆今、シネ・ウインドは子どもが一人で来られる状況ではないですよね。だから、それをもっと子どもに来てもらうようにするか、子どもに来させようと親に思わせるか。
江口◆伊勢丹の子ども服売り場と連携するとか。地元の商店街と連携とって口コミで流してもらう、っていうのがリアルじゃない? みんな、子育てで困ってるんだもの。

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人と人とを繋ぐのが自分の役割、と江口さん。インタビュー後半は井上支配人も交えて、この作品にはこの人のトークがあったらいいんじゃないか、など、より具体的なお話に。シネ・ウインドと一緒に何かやりたい、という熱いお言葉もいただきました!!

昨年6月に開催された「NAMARA第一回新潟元気大交流会」では、総勢700人を超える方々が集まっていて、人脈と行動力に驚かされましたが、その原点を垣間見る思いでした。
※5月19日、シネ・ウインドにて
テープ起こし・構成 岸じゅん / 聞き手・文・構成 市川明美

江口 歩(えぐち あゆむ)…有限会社ナマラエンターテイメント(愛称 新潟お笑い集団NAMARA)代表取締役。1964年12月16日、新潟市生まれ。
1996年、新潟市青年ネットワーク主催による「第1回新潟素人お笑いコンテスト」企画の立ち上げ。97年2月「第1回新潟素人お笑いコンテスト」新潟フェイズにて開催(ゲスト爆笑問題。出場者17組。会場は1400人の超満員)。97年4月、同コンテスト参加者有志が「新潟お笑い集団NAMARA」を立ち上げ、活動開始。05年、有限会社ナマラエンターテイメント設立。
10年、新潟県警「薬物乱用防止活動推進団体」委嘱。12年、まちなか活性化事業「よろっtoローサ」スタート。13年、ゴールド人財エンター事業部立ち上げ。15年、新潟県警「特殊詐欺被害防止 お笑い広報大使」委嘱。

著書『エグチズム 新潟お笑い疾風録 NAMARAの素』(2011年 新潟日報事業社)
エグチズム 新潟お笑い疾風録 NAMARAの素

新潟お笑い集団NAMARA…全国初の地方発信型お笑いプロダクション。これまでの新潟にはなかったお笑い産業を確立すべく、1997年の立ち上げから様々な活動を続けている。ライブ活動、テレビ、ラジオ、イベント出演などのほか、学校での講演、企業・団体の研修会、様々な社会問題を扱った討論会など 様々な現場に笑いを通じて関わり、既存の「お笑い」のイメージにはなかった活動形態が話題を呼んでいる。(ホームページより)