「失笑する人もいるかもしれないが、第三次世界大戦を止めたのは、世界中で作られた数え切れないほどの戦争映画だと私は信じる。第一次世界大戦後1910年代から20年代は、まだ映画が産業として未熟で発信力がないため、次の戦争が止められなかったが、第二次大戦後40年代から60年にかけて、映画は黄金期を迎え、世界中で続々と映画が作られ、戦争映画は世界中の人びとの目に触れた。『博士の異常な愛情』『未知への飛行』『渚にて』…次の戦争が起これば、核爆弾によって、世界は終わると。あるいは『攻撃』『暁の七人』『ネレトバの戦い』『ダンケルク』…第二次大戦での各国の局地戦を描いた映画が、スペクタクルアクションの裏側で戦争の悲惨さを語っている。あの『史上最大の作戦』ですら、反戦映画であると私は思う」

以上、長々と引用したのは、 映画芸術 2015年夏号における特集「私の映画史 戦争映画編」に、大森一樹監督が寄せた一文である。
私は、 前回の当ブログ において、「映画は戦争を止められるか」というテーマで、高畑勲監督の言葉などを引用しつつ、戦争の悲惨さを被害者の側で綴った映画では、戦争を止められないのだ、という趣旨の文を書いた。だが、大森監督のこの一文を読んで、正直面食らった。信頼し尊敬する大森監督ともあろう人が、こんな軽いノリで、映画を信じて、観客を信じても良いのか、と思った。世界大戦こそ起こらなかったが、アメリカはひっきりなしに他国に戦争を仕掛けている。大小にかかわらず、中東やアフリカのみならず世界中で戦争が絶えない。核の恐怖が高まったとしても、いわば核に抑止力があると信じているひとが、核兵器保有国のみならず、この日本の中にもゴマンといて、けして核戦争の危機が根絶されたわけではない。

だが、そう思ったと同時に、あれ、自分はどうして映画を信じてないんだろう、観客を信じてないんだろう、と驚いた。若い頃は、映画の訴求力だとか、観客が映画を観て生じさせるエネルギーだとかもっと信じていた。だが今は、それらすべてにすっかり疑心暗鬼になっている。昔はこんなことなかったのに。これは大いなる誤解だったのだが、フランスで死刑制度が廃止されたのは、映画がきっかけだと長年思っていた。映画は世界を変えられる、人種隔離政策も性差別もゲイへの差別も他民族に対する偏見も、それらを世界中が認識し改善につながっていく動きに、世界中の映画も関わっているのは確かなことだ。それなのに、たぶん戦争だけは例外で、その存在だけはあまりに強大で多くの思想や利害関係や長年の歴史が複雑に絡みあい、映画などとても太刀打ちできないと、自然に思い込んでいたのかもしれない。

この大森監督の文章に目が覚めた。ニヒリズムに浸っている暇などない。いまこの日本で、既にして、政権の動きの中に戦争がほんとうに足元に近寄ってくる恐怖がある。戦争に行きたくないという若者の言葉に、それは利己的だと公言してはばからない与党の議員がいる。こんな時にあきらめていてたまるか。自分には何があるのか、と考えたときに、やはり、映画の力を信じるということ以外にないではないか。

映画で描かれるミステリーやアクションといった娯楽的な要素以外で、人間の思いだとか哀しみだとか不安だとか、本来映像に映らないものを見せるのが映画なんだという認識を深めてくれたのが、大森一樹監督の「ヒポクラテスたち」だった。自分が大学生の時にみたこの映画が、自分のその後の日本映画いや映画すべてに対する認識を改めさせた。そういう意味で恩義ある大森一樹監督の言葉に、再度目を見開かされたのは、単なる偶然とも思えない。

大森一樹監督の最新作「ベトナムの風に吹かれて」 9月26日より。

09topベトナムの風に吹かれて

◎「ベトナムの風に吹かれて」 監督/大森一樹 出演/松坂慶子 草村礼子
9/26(土)~10/16(金) シネ・ウインドにて上映
http://vietnamnokaze.com/
●前売券1300円 発売中 ※シネ・ウインド受付で購入の方のみ特典付き

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nobi

戦後70年目の夏におくる、シネ・ウインド30年目記念上映
塚本晋也監督の新作「野火」 上映中!
◎「野火」http://nobi-movie.com/
シネ・ウインド上映 7月25日(土)~8月21日(金)
8/8(土)~8/14(金)  19:20~20:55
8/15(土)~8/21(金)  16:35~18:10

★「中学・高校生 入場料特別割引」
通常、中学生1000円・高校生1500円のところ → 「野火」に限り、中学・高校生 800円
中学・高校生の皆さん、この機会にぜひご来場ください。

★次回のシネ・ウインド30年目プロジェクト会議は、8月18日(火)の夜です。
メンバー随時募集中!
●8月18日(火) 19時~ シネ・ウインド2階 フリースペースにて
(Ichikawa)


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@KensakuNakamura

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シネ・ウインドにてたま~に上映企画を実施。月刊ウインドにたま~に駄文を発表。映画芸術・日本映画ベストテンワーストテンに2001年より参加。