「映像化絶対不可能と言われた禁断の原作がついに映画化!」という宣伝文句が踊る、堤幸彦監督「天空の蜂」を観た。自衛隊に納入するはずの大型ヘリが遠隔操作でジャックされ、高速増殖炉の上空でホバリング、犯人は全国の原発を即時停止することを求めてくる、さもなければヘリが原子炉を直撃するぞ、と。東野圭吾の原作は1995年に発表されており、映画の背景もその年に設定している。シビアアクシデントが起きてしまった現在では、原作の根幹を成すテロの理由が大きく変化してしまうという配慮だったのだろう。スピーディでスリリングで、なおかつ原発の安全神話のモロさをテーマとした原作の意図は、そつなく映像化されていると思う。電気の恩恵に預かる大衆が、その裏で犠牲となっている事象にまったく無頓着である現実を告発する態度も、誠実に描いていると思う。

しかしだ。なにか物足りない。原作に忠実なのは良いとして、少なくとも我々は未曾有の原発事故を経験してしまったのだ。テロは起きなくとも、3つの原発が爆発し、この国には今現在、生活することはおろか、足を踏み入れることさえできない土地が存在している。事故は今も収束しておらず、日々汚染水は海に放出され、除染の土やがれきがつまった黒いバッグは日々大地を際限なく覆い続けている。

いわば、フィクションが現実の前に敗北したのだ。少なくとも園子温の「希望の国」はそのことに自覚的だった。だが、映画「天空の蜂」は、大震災後の場面をさりげなく用意してはいるが、現実の原発事故については言及しない。今、この「天空の蜂」を映画化する意味は、そこにあるのではないのか。

「やっぱ原発必要だわ」
映画の中盤、原発運転停止のあおりで、冷房が止められたオフィスで、ある女性社員がつぶやくセリフだ。実際には原発がなくても電気は足りている。だが、確かに1995年当時、我々はこう政済界やマスコミに脅されていた。映画の作り手は1995年への大きな皮肉としてこのセリフを使ったのだと思いたい。そういう意味で作品中もっとも良いセリフだ。だがあくまで両論併記のつもりなのだろう。懸命にニュートラルであろうとし続ける。危険な原発も悪いがテロも悪い。原発推進も悪いが反原発も悪い。メジャー映画の宿命なのか。懸命に家族の物語に収拾しようとする作劇に、「禁断の原作」を映画化しようとした本来の意味が失われているような気がした。

「禁断の原作」を映画化しなくても、20年以上前から映画人は、原発の意味を問い続けている。黒木和雄の「原子力戦争」が、池田敏春の「人魚伝説」が、森崎東の「党宣言」が、黒澤明の「夢」が。今回、「原子力映画アーカイブ」の一環として「PRE-FUKUSHIMA」編で選出したのは、そんな2本である。

瀬々敬久監督の「昭和群盗伝2・月の砂漠」は、ある原発事故を背景に、政府から追われる男と元自衛官の探偵を描いたハードボイルドな物語。低予算映画であるから直接事故を描いたりはできない。だが、映画の真の力は観る者のイマジネーションをかきたてることであり、この作品は十分にそんな力を持つ。

木村文洋監督の「へばの」は、六ヶ所村の再処理工場で働く男性が事故で被曝し恋人との関係が崩壊していく様を描く。最近、釜山映画祭で発表されたキム・ギドクの新作が、福島原発事故後の東京で出産を悩む若いカップルの話をテーマにしたものであったことが報道された。「へばの」は、思えばこの未来を描いていたのだ。

先見の明があったというだけで、これら作品を賞賛するのではない。「やっぱ原発必要だわ」と大多数の人が考えていた時代に、このテーマに挑んだ作り手の、勇気と気概とに注目したいと思う。お二人の監督もお招きし、それら題材に挑んだ意図等をお聞きする予定なので、ぜひ、「天空の蜂」を観た人も観なかった人にもご来場いただけたらと思う。

原子力映画top

◎シネ・ウインド30周年祭プレイベント
特集上映【原子力映画アーカイブ§1 プレ-フクシマ編】
10/24(土) 17:45開場、18:00開演(2本立て、トークあり)、21:30終了予定
上映作品:瀬々敬久監督作品「昭和群盗伝2・月の砂漠(成人館公開題名「破廉恥舌戯テクニック」)」16ミリ版
木村文洋監督作品「へばの」
ゲスト:瀬々敬久監督&木村文洋監督 フリートーク「映画は原発とどうたたかえるのか」
料金:一般 前売1500円 当日1800円 シネ・ウインド会員 1000円
https://www.cinewind.com/news/10-24-1/

10topセシウムと少女

◎【原子力映画アーカイブ§2 ポスト-フクシマ編1】
「セシウムと少女」http://cesium-to-shyoujyo.com/
シネ・ウインド上映 10/24(土)~10/30(金) 14:45~16:45
web10ナオトひとりっきり
◎【原子力映画アーカイブ§2 ポスト-フクシマ編2】
「ナオトひとりっきり Alone in Fukushima」http://aloneinfukushima.com/
シネ・ウインド上映 10/31(土)~11/6(金) 14:35~16:30 ※10/31(土)は予告編なし
10/31(土) 村松直登さん来館、舞台挨拶あり
https://www.cinewind.com/news/10-31-alone-in-fukushima/

★11/7(土)~11/27(金) シネ・ウインド30周年祭 開催!!
https://www.cinewind.com/news/30-4/


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@KensakuNakamura

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シネ・ウインドにてたま~に上映企画を実施。月刊ウインドにたま~に駄文を発表。映画芸術・日本映画ベストテンワーストテンに2001年より参加。