上映企画部だより 2025/10/19

若槻

シネ・ウインド上映企画会議 毎週土曜19時~

映画と私たちはどこへ向かうか 

 先日は映画『キムズビデオ』が好評を博しました。ニューヨークにて、かつて業界人や映画ファンの聖地だったレンタルヴィデオ店のコレクションの行方を追ううちに…という内容でしたが、その記録内容や映画在庫の行方が気になる方々がまだいらっしゃる、とみていいのでしょうか。私はかつてレンタルヴィデオ店に勤務していたこともあり、個人的にはもっとレンタル店の内部や存在感に迫りながら、映画の歴史や活気を辿っていくようなドキュメンタリーが作られてほしいと思っています。既に世界的にビデオレンタルの文化は衰退し、店舗なども激減していることから、記録製作なども困難でしょうが、尚のこと、映画の栄枯盛衰について、じっくり見詰めてみる機会があってほしいとも思います。

 私は平成2年生まれなので1990年代の後半になる時期からテレビの洋画劇場番組を見始め、学校や習い事の終わりにはレンタル店へ連れて行ってもらうボンクラ少年期でした。数年後、2000年になるくらいでしょうか。少しずつDVDレンタルが始まっていき、段々とVHSの在庫が減っていくことになるのですが、2003年にGEO空港通り店がOPENした際はVHS在庫がズラリと並び、開店セールとして1本10円でレンタルできたエキサイト感覚を今も覚えています。現在は新宿TSUTAYAは閉店し、渋谷TSUTAYAもレンタル終了したことで、いよいよ「映画を借りて観る」という習慣も終焉へと向かっていき、未だDVD化もされていないようなレアタイトルの在庫も何処かの倉庫で眠りにつくか、富豪コレクターによる商取引が行われることに。「新潟市はレンタル店がいくつも営業していてなんていい街なんだ」と悦に浸れていたのも昨年まで。ビデオ1店舗が相次いでレンタルを終え、近所のTSUTAYAも日に日にレンタルスペースが縮小し、雑貨販売やクレーンゲームを導入している状況。

 何度も振り返っているように、映画興行、映画鑑賞の有り方は時代の流れで移り変わり、いまはインターネットの動画映像配信サービス享受が一般的です。最近思ったことは、VHS、DVD、Blu-rayといったパッケージメディアの流通が少なくなることで、即ち例えば映画解説や大げさなデザイン、個性的な惹句が商品の一部として売りに出されることもなくなっていくわけです。映画の商売が味気ないものとなっていくわけですが、これは寂しいものですね。金曜ロードショーで『JAWS』を観たあと、続編が観たくて『JAWS2』のVHSパッケージ裏に記載されていた解説文、「あのブロディ署長が再び巨大鮫と対決、今度は船もない、銃もない、仲間もいない、さあどうする!?」という一文に「ええ!どうするんや!?」と当時小学生のクソガキながら期待と不安に動揺した感覚も忘れられません。近頃の粗筋しか載っていないような貧相なパケデザインを見ていても、そういった気を利かせて煽ってくるような能動的な作為が、もう許されないのか、出来る人がいないのか、すっかり見かけなくなりました。

 まあ、そんなこんなで、映画業界や映画消費者としては何度目かの岐路に立っているわけですが、映画を観る習慣は便利で楽々になった代わり、かつて確かに存在していた面白味と、それをもたらしてくれる誰かの仕事がなくなっていくんですよね。いや私としてはジャイアントシャークとジャイアントオクトパスが大海原頂上決戦するような夢見がちデザインとか、「遂に到達した究極の新境地”最終解脱”!」や「凶食の顎門が世界を喰いつくす、伝説のSFスプラッター!」とか「圧倒的なスケール!絶対的なクライシス!海が割れるとき 絶望が訪れる!」なんていかにもな文言に騙されたいし、そういった夢に散財したいのです。愉しみが生じるから。例え僅かな時間であったとしても。健康的に現実離れして夢が見れるなら、お金を払います。映画業界へ切に願います。夢を見させてください。

若槻健人

シネ・ウインド上映企画部では、上映作品の選定や、作品紹介をお手伝いしてくれる方を募集しています。上映企画会議は毎週土曜19時より、事務所2Fフリースペースにて。映画館の運営に興味がある方、見学・入部など、お気軽に劇場スタッフにお声掛けください。